高次脳機能障害2級併合1級の10代前半女子について母67歳以降日額1万5000円などを認めて総額2億円以上の損害額を認容した和解事例
・商科高校に進学した被害女子の逸失利益基礎収入額について、女子平均賃金372万円程度が妥当との被告主張を認めず、請求通り男女平均賃金489万円で認定された和解。
・在宅移行1年後に改修を行った介護住宅費について、被告は介護住宅の必要性を争ったが、住宅改造費790万円が損害として認められた和解。
・既経過の障害者総合支援法(旧障害者自立支援法)の給付について損害控除しないとの認定をした和解。
■後遺障害等級:2級1号 併合1級 確定年:2018年 和解
■仙台地方裁判所管内
被害者データ
15歳
・女性
(学生)
事故時15歳 固定時17歳 女性・学生
信号機のない丁字路交差点にて直進路の横断歩道付近を横断していた歩行者である被害者を、加害車両がはねたというもの
高次脳機能障害 2級1号
外貌醜状 12級4号
併合1級
認められた主な損害費目
約670万円 |
|
入院雑費 |
約100万円 |
付添看護料(交通費を含む) |
約500万円 |
後遺障害逸失利益 |
約8500万円 |
将来介護料 |
約6900万円 |
住宅改造費 |
約790万円 |
将来福祉機器費(車いす、装具) |
約200万円 |
傷害慰謝料 |
約450万円 |
後遺障害慰謝料 |
約2800万円 |
その他 |
約80万円 |
損害総額 |
約2億990万円 |
過失相殺(35%) |
-約7350万円 |
損害填補(任意保険) |
-約1280万円 |
損害填補(自賠責保険金)(※2) |
-約3000万円 |
調整金(※1) |
約1340万円 |
近親者慰謝料 |
約300万円 |
最終金額 |
約1億1000万円 |
※1事故日からの遅延損害金や、弁護士費用、慰謝料増額事由の考慮等を含める
※2本件では当事務所にて自賠責申請を行って、約3000万円の自賠責保険金を獲得している。自賠責保険金と和解金を併せて、1億4000万円を超える高額賠償となった。
詳細
被告主張
①商科高校に進学した被害女子の逸失利益基礎収入額について、将来的にアパレル系の仕事に就きたいと被害者自身が言っていることから、あらゆる職種に就く可能性があることを前提にした男女全平均賃金490万円を前提にすべきではなく、女性全平均賃金370万円と主張
②介護住宅費について、被告は介護住宅の必要性について、1年間従前の住居で生活していた事実等を指摘して、住宅改造自体不要と争った
③将来介護費について、将来介護体制は不確実で、母67歳以降はグループホーム入所なども有り得るとして、それ以降の費用は日額1万1000円を超えないと主張。また、既経過の障害者総合支援法(旧障害者自立支援法)の給付についても給付額については賠償から控除(損益相殺)されるべきと争った。
裁判所の判断
①将来の基礎収入額に関して、当方では、賠償実務上の考え方としても、高校生は一般的に卒業まで進路が明確に定まらない者も多いことや、女子の就労を巡る法制度、社会情勢等の変遷により将来の多様な就労可能性があることに鑑みれば、男女全平均賃金を用いるのが相当であることを踏まえて、被告主張に反論した。その結果、裁判所和解案では、当方主張の年収額である男女全年齢平均賃金約490万円での賠償が認められた。
②介護住宅自体が不要だとする被告主張に対しては、被害者らが事故当時築50年の借家に暮らしており、実際に自宅に戻って生活を開始したが、被害者には、下肢機能にも障害があり相当程度身体介護を要すること、当時の従前の住宅では危険が多かったという経過から必要な設備を備えた介護仕様住宅を新築した経緯などを詳細に説明した。その上で、新築住宅の内、介護に必要な設備とその費用についても立証した。こうした詳細な当方の主張を受け、裁判所和解案では、介護住宅の必要性が肯定された。
③介護費用に関しても、相当詳細に介護実態について詳細説明を行った。また、障害者総合支援法の給付性質に関して、これが介護保険給付などとは法律上の給付目的が異なっており、損害を填補する性質がないという点について詳論をした。その結果、裁判所和解案では、母67歳までは日額8000円、以降は日額1万5000円が認められ、既経過の障害者総合支援法給付については、賠償から控除しないとの判断が得られた。
当事務所のコメント
①若年者の被害者の場合、将来的な収入額がどの程度になるのかは未知数であることから、一般的には賃金センサスの男女全年齢・全学歴計平均賃金を用いるものとされています。一方、高校生、大学生、就労開始後と進むにつれて、将来年収がある程度予測可能となってくるため、より実態に即した収入サンプルを用いることが考えられます。
本件では、被害者の女性が、商科高校に進学し、将来アパレル関係で仕事をしたいと発言しているという点から、加害者側は、女性平均賃金(男性平均や、男女平均よりも金額が低い)を用いるべきだと主張しました。
しかしながら、まだ当時15歳の被害者のその時点での将来展望が高校卒業時にどうなっていたかは不明で、この程度の事実関係で、あらゆる職種・進路への可能性がないものと判ずるのは余りにも不当な主張です。
本件では、詳細な事実評価や、実務上の考え方などを詳論した結果、裁判所は当方の主張を全面採用するに至りました。
②介護住宅に関しては、被害者やその家族の事故前・事故後の生活事情によりニーズは千差万別です。
入院中に既に住宅改造が必要であるとして、事前にリフォームができればわかりやすさはありますが、本件のように借家で自由にリフォームできないという事情や、住宅を準備する期間中、ずっとは入院できないといったケース、在宅移行してみたところ、従前の住宅では支障が大きすぎると判明するといった場合も少なくありません。
当事務所では、多くの高次脳機能障害、遷延性意識障害、頚髄損傷などの重度身体障害の被害者の方の賠償サポートを行ってきた豊富な実績があります。在宅移行時期に御依頼を受けていれば、賠償にきっちりとそうした事情が反映されるように、適正な介護住宅費用が賠償されるように、経過中から綿密な相談や助言を行っていくことができます。在宅移行に関して悩まれている場合は、まず、当事務所にご相談を頂ければ、賠償との関係性や多くの事例でどのような経過があるか詳しくご相談に応じられます。
③介護費用に関しては、何よりも介護実態や、障害内容を正確に把握して、裁判所に的確に事実関係を評価してもらうことが重要です。この点に関しても、豊富な実績と経験がありますので、しっかりとご家族から介護状況などを聴取して、整理を行い、主張立証に活かしております。
また、公的給付との関係に関しても、給付制度ごとに賠償との関係性が異なっています。
例えば、介護保険給付に関しては、加害者賠償との調整規定がありますが、障害者総合支援法給付は、障害者のための福祉的給付目的であり、加害者との賠償調整は行われません。
加害者側からは、両者を区別することなく、既に支払われた給付額について、賠償から控除・調整すべきとの主張が多くのケースで行われます。
このような点についても、各制度の構造や、制定経緯、裁判上の実務的な取り扱いなどについて緻密な議論を行っており、多くの事案で適正な判断を勝ち取っています。