復職後の給与収入に減収なく,事故前を上回った頚髄損傷7級被害者につき,後遺障害のため本来の職務(消防士)ができずに事務作業に専念せざるを得ず,就労及び給与額の維持は本人の努力や職場の配慮の結果である側面を考慮して,さらに外貌醜状の影響も考慮した上で,逸失利益約2440万円(労働能力喪失率は60歳まで20%,61~67歳間は56%)を認めた事例。
加害者の主張 消防士である原告は公務員として身分が保障されており,現に事故後復職...
■後遺障害等級:7級、併合5級 確定年:2017年 和解
■奈良地方裁判所管内
被害者データ
45歳
・男性
(地方公務員(特殊勤務有))
男性 受傷時45歳 地方公務員(特殊勤務有)
一時停止後,狭路側から左折のため交差点に低速で進入した原告単車が,交差道路を直進して交差点内に進入してきた被告自動車に衝突された。
併合5級(頚髄損傷7級4号,外貌醜状7級12号)
認められた主な損害費目
休業損害 |
約40万円 |
---|---|
逸失利益 |
約2,440万円 |
傷害慰謝料 |
約210万円 |
後遺障害慰謝料 |
約1,440万円 |
その他 |
約10万円 |
損害額 |
約4,140万円 |
過失30%控除後 |
約2,900万円 |
自賠責保険金控除 |
-約1,570万円 |
*1調整金 |
約270万円 |
*2最終金額 |
約1,600万円 |
*1調整金とは,弁護士費用,遅延損害金相当。
*2自賠責保険金約1,570万円を加えた総獲得額は約3,170万円である。
詳細
加害者の主張
消防士である原告は公務員として身分が保障されており,現に事故後復職してからは事故前と比べて減収どころか昇給すらしているのだから,たとえ頚髄損傷7級(併合5級)の後遺障害があろうとも,逸失利益は認められない。
原告の反論
原告は事故後復職したものの,事故当時の職務をこなすことは一切不可能になった。そこで原告は,職場の配慮(厚意)によって事務作業に専念することとなり,これに報いるために最大限の努力をもって現職務に専念している。原告が減収とならなかったのは,こうした職場の配慮と本人の努力が欠かせなかった結果でもあるから,逸失利益として約2,440万円を認めるべきである。
最終的にこの点について原告の主張に沿った内容での和解が成立。なお,逸失利益における労働能力喪失率は,原告が60歳(定年)になるまでは20%,61歳以降67歳までは,定年後の再就職先確保が容易でないこと,また再就職に当たり外貌醜状が存在することで不利に働く可能性を否定できないことを事情として加味し,56%とされた。
当事務所のコメント/ポイント
本件における最大の争点は逸失利益の算定(労働能力喪失率)である。相手側からは,公務員である被害者の身分保障と,復職後の給与額が事故前と比べて減額されていない事実を根拠に,事故による逸失利益は発生していない旨の主張を行った。
そこで我々において,被害者が後遺障害の影響を少しでも軽減しようと努力をしていること,職場の配慮も大きいこと,それでもなお将来の職場環境変動次第では人員削減の対象にもなり得ること,その場合には転職先が制限されてしまうことなどを丁寧に主張立証した。また,被害者の外貌醜状については,通常裁判では労働能力喪失が否定されるケースが多い(特に男性)ところ,本件では転職活動への影響が考えられ,労働能力喪失につながることも適切に主張した。
その結果,裁判所は相手側の上記主張を採用せず,原告の逸失利益として約2,440万円を認定した。このため,自賠責保険金を含めた原告の総獲得額は3,170万円と十分な水準の金額に達した。