会社経営者である被害者の死亡事故において,逸失利益(就労分)の算定に当たり,経営者としての年収1500万円近くの全額を基礎収入として認定させた事例。
本件被害者に関して会社の情報を詳細に分析した。
■確定年:2018年 和解
■福岡地方裁判所管内
被害者データ
66歳
・男性
(会社代表取締役社長(経営者))
男性 受傷時66歳 会社代表取締役社長(経営者)
被害者が道路横断中,路外から突然左折してきた加害二輪車に衝突された。
死亡事故
認められた主な損害費目
逸失利益(就労分) |
約5,120万円 |
---|---|
逸失利益(年金分) |
約410万円 |
葬儀費用 |
150万円 |
慰謝料 |
約2,400万円 |
近親者慰謝料 |
約400万円 |
その他 |
約170万円 |
損害額 |
約8,650万円 |
過失20%控除後 |
約6,920万円 |
*調整金 |
約680万円 |
最終金額 |
約7,600万円 |
*調整金とは,弁護士費用,遅延損害金相当。
詳細
加害者の主張
逸失利益(就労分)における基礎収入の算定に当たっては,被害者のような会社経営者については,経営者としての収入額全額が基礎収入となるのではなく,利益配当の実質を持つ部分を除いた労務対価分のみを基礎収入としなければならない。被害者の経営者としての収入額は66歳にして年約1500万円近くと高額であり,利益配当分が含まれているはずである。したがって被害者の請求する逸失利益(就労分)を全額認めることはできない。
裁判所の判断
確かに原告の逸失利益(就労分)を算定する上で,経営者としての収入額のうち利益配当分を除いた労務対価分のみを基礎収入とするべきことは事実である。しかし,原告の主張及び提出証拠からは,経営していた会社が零細でなく一定の規模があること,他の社員と比べて著しく飛び抜けて高額ではないこと,経営者として長時間労務に取り組み多忙であったことが理解できる。そうすると,被害者の経営収入額年約1500万円近くは,全額を労務対価と認めるべきであるから,逸失利益は原告の請求全額約5120万円を認める。
【当事務所のコメント/ポイント】
会社経営者である被害者の逸失利益(基礎収入)が最大の争点になった事案である。一般的な会社員と異なり,経営者の収入は必ずしも全額が一般的な給与(労務対価)とは限らず,いわゆる利益配当分が含まれる可能性が高いことから,会社経営者の基礎収入は実収入額より減額されるケースが大半である。
しかし我々は,本件被害者に関して会社の情報を詳細に分析した結果,少なくとも本件被害者の経営者としての収入額は全額が一般的な給与と同じ性質の金額(労務対価)であるとの確信に至った。そこで民事裁判として本訴を提起し,詳細な主張を行った結果,民事裁判所も当方の主張を全面的に認め,年収1500万円近くを前提とする逸失利益(就労分)約5120万円について請求全額を認容した。
年収がこれだけの金額に達する経営者について,年収全額が基礎収入として認められることは稀であり,我々の的確な分析・活動と,ご家族との綿密な情報交換が大きく奏効した結果である。